激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
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夏祭りに来た麻耶は、授与所に寄ってから拝殿に向かう。途中、千暁の姿に胸をときめかせた。神楽の装束をつけた彼は一段と素敵だ。
近くを通っちゃおうかな。
さりげなく近付いたとき、男性が千暁に声をかけた。
怖そうな人で、つい、スマホを見るふりして立ち止まった。
男性が言った。
「先日はありがとうございました。オヤジの葬式を上げられなくて困ってたら、家族葬でやってくれて」
「法律の範囲内で行ったことです。なにもできないのでは悲しみのやり場もないでしょう」
男は深々と頭を下げてから、目をぎらつかせた。
「うちのシマで高天神社の方を相手に暴れたやつがいるそうで」
カタギじゃない、オヤジって父親じゃないよね。と麻耶は別の意味でどきどきした。
「なんのことでしょう」
「おとぼけになって。その半グレ集団、警察が捕まえなかったやつらはうちでシメとくんで」
「ダメですよ」
聞いちゃいけない会話を聞いた気がして、麻耶は足早に立ち去った。
お参りをした麻耶は、ふと拝殿の人影に気がついた。
なぜ今ここに? 不審者?
もうすぐ千暁の神楽が始まる。
以前見た彼の神楽はそれはそれは美しく幽玄で、荘厳な雅楽と相まって夢のようだった。
見逃したくない。
だけど。
ちょうど、巡回の警察官が歩いてくるのが見えた。
警察官がいるなら。
麻耶はふう、と息をついた。