激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
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詠羅の手が鏡に伸びた瞬間。
「拝殿に不審者です!」
声がして、詠羅はふりむいた。
黒縁眼鏡の女が詠羅を指さしている。
「不法侵入ですかね」
隣の警察官が言う。
彼は署長から警備を厳重にと言われていた。警察は千暁が再三の行方不明者の捜索要請を断り、そのせいで事件になったひけめがあった。
だから拝殿に忍び込んだ彼女を見逃せなかった。注意だけで追い出すわけにはいかない。
「本部で事情をお聞かせいただけますか」
「違うから!」
焦った詠羅は逃げようとして祭壇にぶつかる。
祭壇から落ちた榊の花瓶が割れ、その上に転んだ詠羅は腕を切った。
「痛い!」
ざっくりと切れた傷口からは鮮血があふれる。
「なんでこんな目に!」
詠羅は泣き出した。
御神体の鏡は、ただ静かに人々を見下ろしていた。