激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
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紫緒は緊張しながら出番を待った。
千早と呼ばれる装束に赤い袴を身に着け、頭には金色の天冠をつけている。
通常、千早は鶴、松、亀などの縁起の良いものが描かれているが、今回の舞のために準備された千早には柄はなく、真っ白だった。
さきほどは千暁が鉾を持って神楽を舞っていた。
男性の神楽を見るのは初めてだったが、邪を払うためのその舞は勇壮で素晴らしかった。
今は大晴がVRアートを披露している。BGMのメインメロディは律の奏でる篳篥だ。デジタルな音楽に合わせ、絶妙だ。
大晴が手を動かすたびに、大型モニターに巨大な鶏が描かれていく。鶏は天照大御神にゆかりが深い。
尾長鶏をモデルにした架空の鶏だ。金に縁どられた白い翼を広げて羽ばたこうとする様はまさに光を象徴していた。
完成後、紫緒が舞台に上がる。
手にはVRアートで使う器具がある。彼女はVRゴーグルをつけ、大きく手を動かした。
彼女が空間に描きだすのは、「高天神社」の文字。
大きく書かれたそれを輝く鶏の前に動かし、事前に用意された印を両手で、ばん! と押す。VR空間に御朱印が完成した。
同時に篳篥が演奏を終える。
観客の拍手を浴び、紫緒と大晴はお辞儀をして舞台を降りた。
大晴と紫緒は小さくハイタッチをした。
「次、がんばれよ」
「ありがとう」
礼を言い、紫緒は隣に立つ千暁を見る。
「私も応援していますよ」
「ありがとうございます」
紫緒は軽く頭を下げた。