激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「ミカはどうして日本に?」
「外交官になったんだ」

「すごいじゃない!」
「君に会いたくてがんばったんだ」
 ミカはとろけるような微笑を浮かべる。
「お世辞でもうれしい」
 紫緒は笑顔を返した。

「お世辞じゃない。紫緒も知ってると思うけど、国に帰ってからいろいろあって。日本に来るには外交官になるしかなかった。日本語の勉強もがんばったよ」
「だからすごい上手なのね」

「もっとほめて」
「ミカちゃんすごい。大人になって素敵になったわ」

「うれしい!」
 ミカはまた抱き着こうとするが、千暁が紫緒に腕を回してかばい、それは果たされなかった。
 また後ろから抱き着くようにされた紫緒は、かーっと顔を熱くした。

 ミカがふてくされたように姿勢を直すと千暁はその腕を離してくれて、紫緒はほっと息をついた。

 ミカの祖国ラトメニアは北欧にある小国で、もともとはソ連の支配下にあった。ソ連崩壊後はいったん民主化した。
 ミカが帰った直後に政変が起きて軍事国家となり、民間人の出入国はなかなか許可されなかった。

「去年ようやく民主化したのよね」
「だからいろいろ大変だよ。我が国では日本の治安の良さを見習って交番の制度を作ろうとしてるんだ」

「日本を参考にしてもらえるなんて、なんだか光栄だわ」
 交番の制度を考えたのは当然ながら紫緒ではない。だが、同じ日本人としてなんだか誇らしくなってしまう。
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