激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「これ、真ん中に虹があるんですよ」
 勾玉の水晶を彼に見せる。
 彼はそれを受け取り、光にかざした。

「まだ……たんだ」
 彼はなにごとかをつぶやいた。
「なんですか?」
「なんでもありません。素敵ですね」
 千暁はそれを紫緒に返すと、嬉しそうに笑みを浮かべた。

「虹入り水晶とかアイリスクォーツとか呼ばれてるみたいです。小学生のころ、祖母が亡くなって落ち込んでいたら、高天神社の若い神主さんが慰めてくれて、これをくれたんです」
「そうなんですね」

「あとで返しに行こうとしたらそんな神主はいないって言われて。神様の化身だったのかも、なんて思っちゃいます」
「御祭神は天照大御神ですから、化身ではないと思いますよ」

「そっか、性別が違いますね」
 えへへ、と紫緒は笑った。

「ですが、天照大御神は実は男性では、という説があります」
「そうなんですか?」
 女性なのに最高神だということで、同性としてうれしかったのに。

「真実はわかりませんが、古代は巫女が重要視されていましたから、女性を最高神に据えるのもわかる気がします」
「ああ、卑弥呼とか」
 紫緒は頷いた。それ以外は知らないが、古代は母系社会だったのは頭の隅に残っていた。

「虹は吉兆だとも言われます。厳密には虹ではなくても、これも良ききざしかもしれませんね」
「そうだといいなあ」
 紫緒はまた空を見上げる。
 環天頂アークは変わらない輝きで空を彩っていた。
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