激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「そこをなんとかうまくなだめるのも仕事でしょ」
 紫緒は力なく椅子に座り直した。
 咎められるべきは詠羅だろう。注意するのは上司の仕事だろうに、どうして自分の非になるのか。

「明日までに退職届を出して。でないと懲戒処分になる」
 どうせ辞めようと思っていたのだ。
 紫緒はうつむき、ぎゅっと拳を握りしめる。
 労基に言って戦う気になどなれなかった。勝てる気がしない。

「わかりました」
 気落ちしたまま、紫緒は頷いた。
 会社の寮にはいつまでいられるのか。早く次の住居を見つけなくてはならない。



 その日のうちに退職届を出した紫緒は、ふらふらと神社に向かった。
 高天神社は寮の近くにある。
 子供の頃、信心深い祖母によく連れて来られた。

 紫緒は手を清めると神社にお参りした。前回のお願いは叶ったので、そのお礼を言った。
 さすがに退職の問題は無理だよね、と思ってから、転職がうまくいきますように、とお願いする。

 帰ろうとする紫緒の目に、水色の袴を着た千暁が目に入った。
 紫緒の目が輝く。
 会釈をすると、彼が近付いて来た。
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