激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 昨日はあの空に虹を見た。正確には環天頂アークだが、虹は良いことの前兆だとも言われた。
 退職を勧告されたときは不幸のどん底に思えたが、すばらしい転機になるのだろうか。
 いや、失職してすぐに仕事も住居も紹介されるなんて、幸運以外のなんだろうか。

「すみません。よろしくお願いします」
 紫緒は結局、頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 千暁の声には、安堵のような喜びが含まれていた。



 寮はすぐに出て行けと言われたが、交渉して三日の猶予をもらった。
 急な引っ越しでお任せパックにしたので、そうとうな出費となった。
 午前中に荷物を積み込み、トラックが先に出発する。すぐに自分も向かった。

 到着した先の建物を見て愕然とした。
 豪邸と言える規模の和風建築だった。
 その離れの一軒家に業者がトラックから荷物を運んでいく。
 そこへ神主装束の千暁が現れた。今日も清々しい。

「紫緒さん、いらっしゃい」
「あの、これは」
「あちらに住んでいただきます」
 紫緒はうろたえた。一軒家だなんて聞いてない。時間がなくて下見どころか詳しい話も聞けていなかった。

「母屋には私と家族が住んでいます。困ったことがあったらいつでもおっしゃってください」
「はい」
 思わず返事をしてしまった。
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