激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「話は聞いています。よろしくお願いしますね。しかし、息子が無理をいったのではありませんか?」
 嘉則が心配そうにたずねた。

「ちょうど失業したところで、渡りに舟といいますか……こちらこそ、ご無理だったのでは」
「まあま、そんな話はいいじゃない。食事にしましょ」
 美津子がにこにこと言った。

「そうよね。座って」
 朋代に勧められて、紫緒は緊張しながら千暁と隣同士で座る。朋代は嘉則の隣に座った。

「父は宮司でこの神社の責任者です。姉は巫女です」
「そんなことも説明してなかったの?」
 朋代が驚いて彼を咎める。

「時間がなかったので」
「まあ……すみませんね、陸里さん」
「大丈夫です」
 答えてから、食卓にならんだ肉じゃがをいただいた。味がしみていて、甘辛さがほどよい。

「おいしい!」
 思わず言ってしまい、慌てて口をつぐんだ。
「あら、うれしいわ」
「朋代さんは料理がお上手だから。たくさん召し上がれ」
 美津子が笑顔で言った。

「ありがとうございます」
 ふと彩陽を見ると、不機嫌そうに箸を動かしていた。
 急にお邪魔したから怒ってるのかな。
 紫緒は不安になりながら、食事をいただいた。

 夕飯も一緒にと誘われたが、それは固辞した。
 荷ほどきに終われ、その日はばたばたと忙しく終わった。
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