激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「髪は染めないで。短くしてもダメ。研修中の袴はこの松葉色、髪飾りはこれ。研修が終わったら緋色の袴を渡します」
「はい」
 威圧を感じる言い方だった。それほど巫女の仕事は厳しいのだろうか。

「朝礼は朝のお勤めのあと。こっちよ」
 紫緒は部屋を出る彩陽に緊張しながら続いた。裾を踏んでしまいそうで、歩き方はぎこちなかった。



 連れていかれた拝殿では、米、酒、塩などがお供えされていた。その前で神主が祝詞を奏上する。
 毎朝のお勤めは日供祭(にっくさい)と呼ばれている。
 それが終わると朝礼が始まり、紫緒が紹介された。
 よろしくお願いします、と頭を下げると、千暁がその場にいる人たちを紹介してくれた。

 宮司の嘉則は紫の袴をはいていて、隣には彩陽。
 彼女のほかに二人の巫女がいた。一人はアジア系の外国人のように見えた。

「父と姉はもう紹介しましたね。こちらが巫女の金尾紗苗(かなおさなえ)さん」
 アジア系の外国人に見えた人が紗苗だった。日本名だ、と驚いていると彼女はくすくすと笑った。

「母がフィリピン人だけど生まれも育ちも日本で、戸籍も日本よ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
 見透かされたことを恥ずかしく思いながら頭を下げる。

「こちらは岬絵麻(みさきえま)さん」
 目の細い落ち着いた雰囲気の人だった。
 よろしくお願いします、とお互いに頭を下げる。
 こうして緊張の一日が始まった。
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