激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない



 まずは千暁に神社内を案内された。
 敷地は杉の木で囲まれている。真っ直ぐに伸びる杉を目印に神が降臨するからという説もあるが、かつて木材として植えていた名残だともいう。

 狛犬がにらみをきかす正面の鳥居をくぐると、左側には手水舎と、湧水が流れる池がある。
 右側には車のお祓い所があり、奥には参拝者用の駐車場が用意されている。
 敷地内には二本の大きなイチョウがある。イチョウが燃えにくいことから防火の役目があるという。

 玉垣と呼ばれる門をくぐると拝殿があり、奥に本殿がある。
 拝殿は一つだが本殿は二つあり、それぞれに天照大御神と豊受大御神が祀られている。
 建物は伊勢神宮と同じ神明造りだ。

 江戸時代にこの近辺の豪農であった人物が、日照りに困って天照大御神に祈りをささげたところ、彼の足元から湧き水が出たという。
恵みに感謝し、彼は天照大御神を祭神として神社を建てたのだという。

「巫女の仕事は清掃、神職の手伝い、お守りやお札の授与などです。巫女舞も覚えていただきます」
「私が?」
 紫緒の顔がひきつった。

「結婚式や御祈祷には舞の奉納があります。八月の夏祭りにも舞の奉納があります」
 紫緒は言葉を失った。人前で踊るなんて授業でやったダンス以来だ。あのときは恥ずかしくてたまらなかった。

「事務作業は母がやりますが、間に合わないときは頼むことがあるかもしれません」
「はい」
 そっちのほうが自分には向いている気がする。
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