激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 なんとなく目で追うと、拝殿の前で鈴のついた縄を手にして三人で相談を始めた。
 その後、本坪鈴(ほんつぼすず)——お参りの際に鳴らす鈴——についた縄を、父親が大きく振り回した。

 がらんがらんがらん!
 大きな音が響き渡る。

 父親はしつこく鳴らし、母親は笑いながら動画を撮っている。交代して母親が鳴らし、父親が動画を撮る。

 あんなに乱暴に鳴らすものじゃないのに。
 神様からしたら玄関でピンポンを連打されてる感じじゃないのかな。

 はらはらしていると、今度は子供が縄を持った。そのまま登り始める。

 え!?
 紫緒は思わず立ち上がった。まさか登るなんて思いもしなかった。

 神様に対して失礼とかいう以前に、危ない。
 親は止めるどころか、縄をゆすった。子どもがきゃっきゃと歓声を上げる。

「す、すとっぷ!!」
 気が付いたら叫んでいた。あとさき考えない、とっさの行動だった。

 親子は振り返り、けげんそうに紫緒を見る。
 紫緒はその視線に硬直した。

 どうしよう。
 動揺して心臓がばくばく鼓動を早める。
 だけど、声をかけたのは自分だから、ちゃんと説明しないと。
 紫緒は彼らに近付き、説明を試みた。

「それはお参りのためのもので、おもちゃじゃないんです」
 日本語で言ってしまい、彼らは首をかしげる。
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