激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「なんの用ですか」
「詠羅がさあ、俺との婚約をやめるって言いだしてるんだよ」
 やはり、婚約相手は斗真だったのだ。だが、どうしてそれを自分に言うのか。

「婚約はどうでもいいけどさ、俺の立場が微妙になるのが困るんだよ。それで、だ」
 斗真はもったいつけて区切り、紫緒を見る。
「お前が神主と詠羅の仲介をしろよ」
「はあ!?」
 思わず大声を出してしまった。

「そしたら、俺のおかげになるだろ? 社長にも覚えめでたく今後は安泰だ」
 どういうどんぶり勘定だろう。紫緒はくらくらした。
「無理です」
 どういう理由であろうとも、詠羅に千暁を紹介したくなかった。
 穢れなき清流のような千暁。詠羅なら汚しに汚す気がする。

「お前、俺が好きなんだろ? 付き合ってやるからさ」
「違います!」
 思わず声が大きくなった。背筋が恐怖に凍る。
 その視界に紗苗の姿が映る。
 助けてほしい。だが、初日からそんなことなんて。
 逡巡するうちに、紗苗はにこやかに会釈して立ち去ってしまった。

「食事に誘ったときは嬉しそうにしてたくせに」
 斗真が紫緒の腕をつかむ。
「気のせいです。離してください」
 本当は嬉しかった。自分を貶めるための布石だとは思わなかったから。

 そうして罠にはめて笑い物にして、なのにまた利用しようとするなんて。
 どれだけバカにされているのだろう。
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