激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「権宮司ですね。宮司とか権宮司とか、役職で呼んでくださいね」
 絵麻が鏡で姿を確認しながら言った。
「巫女の場合はどう呼ぶんですか?」
「役職がないから名前で大丈夫」
 紫緒の装束を確認しながら紗苗が言った。

「権宮司とつきあってるんですか? 宮司のお宅の離れに住んでるんでしょう?」
「だから婚約者かなって話してたのよ」
 笑い含みの紗苗の言葉に、紫緒は慌てて両手を振って否定する。

「違います!」
「あの家は権宮司が結婚して住むって聞いてたのに」
「もう婚約者がいるってことですか!?」
「将来的にってこと」

 紫緒はほっとした。婚約者がいるのに先に住んでしまったのだとしたら、とんでもなく失礼だから。いや、でもやっぱり、将来の妻はいい顔をしないだろう。

「じゃあなんであの家に?」
「会社の寮を出ないといけないって言ったら住まいは用意すると言われて。そしたらあの家でした」
「そうなんだ。ラッキーだったね」
 紗苗はにこっと笑ってから、真面目な顔をした。

「気を付けてね、彩陽さん、かなりのブラコンだから」
 昨日冷たかったのは、もしかしてそれが原因だろうか。

「権宮司にストーカーみたいなファンがついてから、それがさらに激しくなっちゃって。彩陽さん自身にもストーカーがいたことがあって、あのときはすごく怖がってたわ」

 仕事だけでも大変そうなのに、さらにストーカー対策まで必要になるなんて。
 だから防犯が厳重だったのか、となんだか納得した。
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