激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 一人の地味な女性がいた。三十代後半だろうか。黒髪に黒縁眼鏡で、ボーダーのカットソーにデニムのロングスカートをはいていた。手には華やかな和紙で作られた表紙の御朱印帳があった。
 ガラスを開けると、女性はそれを差し出す。

「御朱印帳をお願いします」
「お預かりいたします」
 紫緒は受付帳に名前を書いてもらい、引き換えの番号を渡す。
 女性は頭を下げて参拝へと向かった。
 御朱印帳は彩陽が書いてくれるので、渡す。
 彩陽がさらさらと筆を滑らす姿はかっこよくて見とれてしまった。

「なに見てるの」
 視線に気付いた彩陽にきつく咎められる。
「すごいな、と思いまして」
「そのうちあなたもやるのよ。ぼけっと見てないで、学んで」
「はい」
 紫緒は顔をひきつらせた。

 書道なんて学校の習字でやった以来、やったことがない。
 彩陽は最後に朱で印を押して仕上げた。
「おいでになったらお渡しして。私は御祈祷の準備に行くから」
 彩陽はそう言って退室した。

 今日は警察署の署長を迎えての交通安全祈願だ。
 すでに先に絵麻が準備に行っている。
「彩陽さんは御朱印のために書道を習って、今は師範の資格も持つほどの腕なんだよ」
 こそっと紗苗が教えてくれた。
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