激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 そこまで努力している人と同等に働ける日が来るのだろうか。その前に定年が来てしまいそうだ。

「御朱印帳を頼んだ人ね、深沼麻耶(ふかぬままや)さん、権宮司のファンなのよ。御朱印帳はここの神社の御朱印しかないの。お参りはほぼ毎日、月に一度はお祓いを受けてるのよ」
「すごいですね」
 かなり熱烈なファンのように思える。

「彼女は大人しいからいいのよ。ひどいのになるとね……あ、来た」
 紗苗が目を外に向ける。と、三人の若い女性が固まってこちらにやって来た。
 そのうちの一人、一番派手な茶髪の女性が窓ガラスをガラッと開けて、紗苗に言う。

「今日は千暁はいないの?」
 尋ねる彼女のネイルも派手だった。ストーンがぎらぎらと輝く。

「権宮司は地鎮祭に出ております。どのような御用件でしょうか」
「えー。またあ? 最近多くない?」
「せっかく会いに来たのに」
「サービスわるっ!」
 女性たちは口々に文句を言う。

「神社は心静かにお参りいただく場所です。特定の方に接客する仕事ではございません」
 紗苗はきっぱりと言い切る。
 紫緒は感動した。自分ならあんなにはっきり言えない。

 神社は日本標準産業によればサービス業の区分になる。だからといって一般の店のような接客を求められても困るのが正直なところだ。

「感じわるっ。ネットに書いてやるから!」
 そのときだった。
 授与所の扉が開き、絵麻が入って来た。
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