激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「あ! あんた!」
 女性が声を上げる。絵麻は驚いたように授与所を出て扉を閉めた。
「あの女、岬絵麻でしょ?」
「個人情報はお伝え出来ません」
 紗苗はまたきっぱり断る。

「まあいいわ」
 女性はにやりと笑った。
 なんだか怖い人だな、と紫緒は眉を寄せる。
 彼女たちは連れ立って去り、紗苗は冷めた目でそれを見送った。

「あの人たちマナーが悪いの。とくにあの茶髪の人。和久田優奈(わくだゆな)って人、境内にゴミは捨てるし大声ではしゃぐし、権宮司にまとわりつくし、他の方の御祈祷の最中に写真とりまくるし、ほんと迷惑。今日は権宮司が不在で良かったわ。いないといないで今みたいにうるさいんだけどね」

「大変ですね」
「ヤクザも参拝に来るしねえ」

「ヤクザって神様信じてるんですか!?」
「命かけてるからじゃないのかなあ。わかんないけど。今は暴対法のせいでヤクザの事務所に御祈祷に行かないからいいけど。でもね、今でもヤクザからは神主って一目置かれてるみたいよ」

「知らない世界です……」
「暴対法のせいでヤクザはお葬式もあげづらくなったって愚痴ってたよ。神道のお葬式は神葬祭って言うんだけどね。あ、ほら、あの人」

 角刈りの男性が大股で歩いているのが見えた。目つきが鋭い以外は普通の人のように見えた。
「話してみると良い人っぽいんだけど、やっぱりなんか違うのよね」
 ヤクザの愚痴を聞くことのできる紗苗が、とんでもないコミュ強のように思えた。
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