激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない



 手が空いたときにはお守りの在庫確認、結婚式や七五三のパンフレットの補充を行った。
 お札を紙袋に詰めるのも夏祭りの準備をするのも仕事の内だ。
「巫女って力仕事もあるし、意外に体力勝負なのよね」
 紗苗はそう愚痴をこぼす。

 七五三のときなどは早朝からの出勤になるというし、年末年始は夜勤もあるという。
 掃除をするにもなにをするにも基本的に作業は巫女装束のまま。裏方作業や汚れそうな作業のときは作務衣を着ることもある。

 この神社はお手洗いは参拝客とは別の場所に用意されていた。
 隣には更衣室があり、そこで袴を脱いでトイレに行くことができる。
 とはいえ、今はスカート型の行燈袴なのであまり更衣室は使われていない。かつては馬乗り袴というズボン型だったので更衣室は必須だった。

 千早という神楽を舞うときの衣装では、そのままトイレに入ってはいけないという。神は穢れを嫌うからだ。
 穢れは単純に汚いという話ではない。物質に限らず、精神的なものも含まれる。

 穢れは「気枯れ」が転じた言葉とも言われており、その状態になると生命力が衰えるとされている。
 だから禊などでそれを祓い清め、回復する必要がある。
 神様って潔癖だな、と紫緒は思った。



 宮司に来客があるというので紫緒はお茶出しに向かった。
 お茶をお盆に載せて事務所兼応接室に入ると、嘉則の向かいにはVRアーティストの宇槻大晴とマネージャーの浮田弘文がいた。
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