激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「冗談きついです」
 紫緒が言うと、千暁はふっと笑いをもらした。
 否定しなかった。やっぱり冗談なのか。

 千暁が手を離してくれる。
 安堵とも落胆ともつかないものが胸に広がり、紫緒はため息をついた。

「今日は失礼しました。私はまだ稽古で庭におりますが、お気になさらず」
「はい」
 千暁が離れると、紫緒は窓を閉めてカーテンも閉めた。

 抱きしめられた熱はいつまでも紫緒にしみついて、なかなか離れてくれなかった。



 翌日は朝礼のあとに朋代に呼び出された。
 事務所に行くと、そこには眉根を寄せた千暁もいた。
 朋代は紫緒を見て目を輝かせた。

「千暁とつきあってるんですって? 早く言ってくれたら良かったのに! だからあの家に住んでもらってるのね」
 うきうきと朋代が言う。

 紫緒は驚いて千暁を見た。千暁は渋面を作って言う。
「あの家は母さんが勝手に建てたものです。空き家だと痛むから住んでいただいてるだけです」

「もう一緒に住んでしまえばいいのよ! ね、いいわよね、紫緒さん!」
 聞く耳を持たず朋代が言う。

 紫緒は困惑した。
 断るなら出て行くのが筋だろう。引っ越しでお金を使ったばかりだ。再度の出費は痛い。
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