激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「遠慮しないでいいのよ。あ、洗濯が終わるころだわ」
 朋代は浮かれた様子で事務所を出て、紫緒と千暁が残された。

「母がすみません。あとで釘を刺しておきます」
 困り果てたように千暁が言う。イケメンは困り顔すらもイケメンだな、と紫緒は変なところで感心してしまった。

「母は、理解ある母親をやりたくて仕方がないのですよ。私が恋人を作らないからそれを実践できなくて物足りないのでしょう」
 どうして作らないのですか、と喉まで出掛かって、紫緒は思いとどまった。そんな個人的なことを聞いていいように思えない。

「ただ、ほかに心惹かれる人がいなかっただけなんですけどね」
 千暁はいたずらっぽく笑って付け足した。
 ほかに、という言い方が気になったが、そこをつっこむ勇気はなかった。

「もうお嫌になったのではありませんか?」
「そんなことありません!」
 思いがけず大きな声になってしまい、紫緒は口を押えた。

「それは良かったです。私は紫緒さんがいてくれるだけで良いのです」
 その言い方はずるい。紫緒は口をぎゅっと引き結んだ。錯覚しそうだ。きっと人手が欲しくて言っているだけなのに。

「ご期待に応えられるように頑張ります」
 答える紫緒を、千暁は穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。



 お昼に休憩室に行ったときだった。
 現れた千暁は周りに人がいないのを確認して言う。
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