激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「手遅れでした。すでに母が、私たちが交際しているとふれまわっていました」
「ええ!?」

「ここまで母が浮かれるのは初めてです。しばらく母の道楽につきあっていただけませんか」
 紫緒は返答に困った。自分も以前、偽装の恋人を頼んだ立場だ。今回は彼のために演じるべきだろうか。

「いっそ本当に結婚していただきたいのですが」
 紫緒は唖然とした。千暁はちょいちょいとんでもない爆弾をぶっこんでくる。

 やはり、迷惑ファンの対策で結婚したいのだろうか。それとも親孝行で?
「迷惑ファン対策にしても、それはやりすぎかと」
 紫緒が答えると、千暁は目だけで笑った。

「母が落ち着いたらまた話をします。しばらく適当にかわしてください」
 それが一番難しい、と思いながら紫緒は頷いた。



 お昼の休憩から戻ると、さっそく紗苗と絵麻に捕まった。
「結局、つきあってたのね。隠さなくてもよかったのに!」
「隠したくなる気持ちはわかります。ファンの逆恨みが怖いですよね」

 そういう危険もあるのか、と紫緒はうんざりした。
 昨日は熱烈なファンを見た。あの人たちが知ったらどう思い、どう行動するのだろう。
 眼鏡の女性も気になる。話を聞く限り、執着心がすごそうだ。

 彩陽はなにも言わなかったが、紫緒を見る目が冷たくて居心地が悪かった。



 夕方、家に帰った紫緒はまたも驚いた。
 玄関の前に千暁がいたからだ。神主の装束ではなく、Tシャツにジーンズというラフな出で立ちだった。
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