激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「おかえりなさい。母に締め出されました。今夜はこちらに置いていただけませんか」
「え!?」

「玄関の指紋認証の登録を消されてしまって入れません。服と食料だけ渡されました」
 手に持った紙袋を、苦笑しながら掲げて見せられた。

「父は出張、祖母は旅行、姉は友達の家に泊っています。明日にはみんな帰ってきますから、明日からは大丈夫です」
「私がホテルにでも行きます」

「やはり信用していただけませんよね。私がホテルに泊まってきます」
 彼の笑顔が寂しく翳り、紫緒の胸がぎゅっと痛んだ。

「信用は、しています」
「ではとりあえず食事にしませんか。私が用意しますので」
 穏やかに笑う千暁に、紫緒は玄関を開けた。



 食事を終えて部屋に戻った紫緒は、ため息をついた。
 彼が作ってくれたのは和食で、すばらしく美味しかった。

 それでなんとなく、出て行くだのなんだのという問答をできなくなってしまった。
 彼ならば変なこともしないだろうが、一つ屋根の下というのは落ち着かない。

 とりあえずお風呂に入ろうと着替えを持って階下に降りる。
 普段は使ってないナイトブラも用意した。

 脱衣所の扉を開けると、Tシャツを脱ぎかけている千暁と目があった。

 紫緒は顔をひきつらせて固まった。
 あらわになった彼の上半身が眩しい。

「ごごご、ごめんなさい!」
 動揺のあまり、勢いよく頭を下げる。
 ぱさり、となにかが落ちた。
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