激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「普通にミカで。僕も紫緒って呼んでるから」
「わかったよ、ミカ」
 それだけでミカは嬉しそうに笑った。



 鎌倉では大仏を見たあと、参道のお店を見て回り、二人ではしゃいだ。
 夜は彼が予約したオシャレなレストランで一緒に食事をした。
 食事の間もミカは楽しい話題を投げかけ、二人は笑いながら食事を終えた。

「こっちにいたのは一年くらいだったけど、もう日本が第二の故郷だよ」
「そう言ってもらえるとうれしい」
「やっぱり日本は平和でいいなあ」
 ぽつり、とミカがつぶやく。

 遠い目をする彼に、紫緒はなんとも言えない気持ちになった。
 ミカは父親の仕事の都合で日本にいた。学校はインターナショナルスクールに通っていて、紫緒とは別だった。お隣でなければ知り合うことのなかった他人だ。

「あっちに帰ってすぐ政変があって、装甲車が街を走り回ってたよ。大人も怯えててさ。銃声がしょっちゅう聞こえて、怖かった」
 紫緒には銃なんてテレビで見るくらいのものだ。

「亡命が相次いだからすぐに民間人の出国禁止が発令されて、逃げ場がなくて」
 ミカの父親は貿易会社の社長で海外との取引をしていたから大きな打撃だったという。

「だけど人間てすごいね、そのうち慣れてしまってさ。外交官になれば国を出られると知って、即座に目指したよ。君に会いたかったから」
 ミカは甘やかに笑みを浮かべて紫緒を見る。
 紫緒は悲しく見つめ返す。
< 67 / 241 >

この作品をシェア

pagetop