激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「そんな顔しないで。君に会えてとても嬉しいんだから」
 ミカはさらに笑みに目を細める。

「ありがとう」
 自分が日本でのほほんと暮らしている間にどれだけミカがつらい思いをしたのか。それを考えるといたたまれない。
 去年、首魁の死亡により軍事政権が崩壊し、ようやく民主化がかなった。

「民主化のどさくさまぎれで、駐日特命全権大使になった。僕の若さでここまでの出世は異例だよ。ラトメニアは日本とのつながりを強化しておきたいから僕の存在は都合がいいんだ」
「すごいなあ、ミカは」
「ふふ。もっと褒めて」
 嬉しそうな姿が子犬みたいだった。

「立派だよ。すごくがんばってきたし、きちんと結果をだしてるのもすごい」
 もっと気持ち良く褒めてあげたいのに、すごいしか出て来ない。紫緒は自分の貧弱な語彙力がうらめしくなった。

「嬉しい。抱きしめたい」
「ダメだよ」
 紫緒は慌てて止めた。
「わかってる、今はしないよ」

 今は。あとならするのか。
 紫緒はどぎまぎした。彼には挨拶だろうが、まったく慣れる気がしない。

「ところでさ、彼氏って嘘だよね?」
 いきなり言われ、紫緒は面くらった。
「僕たちの間で隠し事はナシね」
 まっすぐに見つめられ、紫緒は悩んだ。
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