激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
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昨日の午後のことだった。
同僚の四奈川美悠とランチを終えた紫緒がフロアに戻ると、社長令嬢で営業担当の永高詠羅が待ち構えていた。
詠羅はなにかとつっかかってくるから苦手だった。彼女は紫緒より一つ下だが、立場も年齢もお構いなしに誰に対しても高圧的だった。
「今日も平和な顔してるわね」
ブスと言いたいのか、なにも考えてないと言いたいのか。
紫緒が答えずにいると、詠羅が紙を突き出した。詠羅がホストクラブで飲食した領収書だった。
「これ、経費で落とせないってどういうこと?」
「こちらは接待でも経費で落とせません」
紫緒たちが働いているのは地元に根差した製パンメーカー、ドリームパン工房の東京本社だ。全国展開はしていないものの、関東ではそれなりに名を知らしめていた。
営業の彼女は接待と称してあちこちで豪遊しては領収書を渡してくる。社のルールに従って断ったら、すっかり目をつけられてしまった。だが、できないものはできない。
実際、詠羅は外回りと称して遊び回っているだけだ。なんの結果も得られていないことは周知だった。
「あんたってほんっと頭固くてバカね。これが次につながるってどうしてわからないの。私が体を張って仕事をとってきて、あんたたち事務を養ってあげてるのよ!」
詠羅が叫ぶ。
周囲は見て見ぬふりだ。
美悠がなにか言おうとするのを、紫緒は目で制する。
なんといっても詠羅は社長令嬢だ。社長は親バカでワンマンで知られているし、詠羅が社長に一言言えば、クビが飛ぶ。紫緒のクビが飛んでいないのが奇跡的だった。
「永高さん、落ち着いて」
唯一割って入った声は、鯖田斗真のものだった。