激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 もうすぐ着きます、という返事にいてもたってもいられなくて外に出てしまった。
 ミカに抱きしめられている姿に、再び嫉妬の濁流が渦巻いた。

 さらには口調。ミカには名前を呼び、リラックスして砕けているのに、自分に対してはいつも緊張と敬語だ。少しずつなんて思っていたら、あっという間にかっさらわれてしまうだろう。

 彼にこそ偽装が必要だっただろう、とは彼女には言えなかった。

***

「あれ? 千暁は?」
 母屋のリビングで、彩陽は母に尋ねた。
「紫緒さんに会いに行ってるんじゃない? 邪魔しちゃダメよ」
 母に釘を刺されて、彩陽はむっつりと口をつぐむ。

 大事な弟に、とんだ虫がついたものだ。
 今まで恋人がいないことに心配とともに安堵があった。
 もし恋人ができたら平静ではいらなれないだろうとは思っていた。

 かわいいかわいい弟。
 ぽっと出のよくわからない女に、奪われていいわけがない。

「なんとかしなくちゃ」
 彩陽はぼそっとつぶやいた。
< 74 / 241 >

この作品をシェア

pagetop