激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 御祈祷のお手伝いをした紫緒は、無事に役目を終えられてほっとした。
 玉串を運ぶなどの簡単なものだったが、神聖な儀式で失敗したくなくて緊張した。

 本殿を出ると、先ほどの御祈祷の親子が待っていた。
 親子といっても二人とも大人だ。息子は三十四歳のニート。心配した母親が彼を連れて来たのだ。母親が自分からぺらぺらと話したことだった。

 会釈して去ろうとしたが、母親に呼び止められた。
「あなた巫女なんだから未婚よね。うちの子ちゃんと結婚してほしいの」

 紫緒は硬直した。
 二十五歳の自分が三十四歳の無職と? さっき会ったばっかりなのに?

 冗談なのだろうか。
 最近やたらと結婚というワードが飛び交うが、なんの現象だろう。
 そんなことを考えてしまい、なにも返答できなかった。

「うちの子ちゃんはデリケートだから今どきのうるさい子じゃダメなの」
 母親がまくしたてる。

 息子はじっとりとこちらを見ている。百キロは超えていそうな体で、脂ぎった顔をしていた。目は肉に埋もれているのか、細い。
 こんな「うちの子ちゃん」のお世話なんて、絶対に嫌だ。

「彼女には恋人がおります」
 穏やかな声が割って入った。
 千暁だ。

 御祈祷のため、濃緑に丸い文様のある狩衣を着ていた。夏用なので通気性のいい羅の布が使われている。頭には烏帽子を被っていた。
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