激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「そんなの巫女なのに穢れてるわ!」
 ぎゃんぎゃんと母親がわめくのを、千暁は穏やかな笑みで受け止める。

 目で合図を送られて、紫緒は会釈して立ち去った。
 紫緒はしょんぼりと歩いた。
 助けられてばかりだ。いつになったら彼の助けになる一人前の巫女になれるのだろう。



 次の休みの日のことだった。
 シフト制だからその日は平日だった。
 千暁に借りた本を手に、紫緒は眠気と戦っていた。

 日本の神や神社について書かれている本だった。
 神には荒魂(あらみたま)和魂(にぎみたま)があり、一つの神が持つ両面を表したものだという。

 荒魂は勇猛さや怒りなど、神の荒々しい面を表すとされている。また、新しいものを生み出す新魂(あらみたま)でもあるという。

 和魂は優しく穏やかな面を表している。和魂はさらに幸運を授ける幸魂(さきみたま)と、人に奇跡などの不思議な力を奇魂(くしみたま)にわかれる。

 ぴんぽーん、とチャイムが鳴って、紫緒は本を置いた。
 インターホンに出ると、そこにいたのは巫女装束の彩陽だった。休憩時間に来たらしい。

「お願いがあるんだけど、いいかしら」
「はい」
 紫緒はすぐに玄関を開ける。

 すると彩陽は紙袋を手にずかずかとリビングまで入って来る。
 彩陽は紫緒をじろっと見ると、紙袋からいくつかの服を取り出し、その中から一枚を選ぶ。
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