激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「これ着て」
 渡されたワンピースに、紫緒は戸惑う。
「え?」
「早く!」

 叱責するように言われ、紫緒は慌てて二階の自室にひっこんで着替えた。
 ワンピースを着て降りて行くと、彩陽はなにかを納得するように頷いた。

「そこに座って」
 言われるままにソファに座ると、彩陽は紫緒にメイクを施し、髪型を整える。

「これでよし!」
 彩陽は満足げに紫緒に鏡を渡す。
 紫緒は仕上がりに驚いた。
 垢ぬける、という表現がぴったりだ。

 どうして、と彩陽を見ると、A4の封筒が入った紙袋を渡された。
「書類を律に届けてほしいの。今日は実家で練習してるから。住所はこれ」
「はい」
 ふだんは役に立ってない。休みであってもこれくらいのお使いをしなくてはバチが当たりそうだ。

「律は凄いのよ。阿辺野家の家系図は江戸時代からしかないけど、本流は京都で、雅楽を受け継いだ家系なの。江戸時代に先祖がこっちにきたの」
 家系図が江戸時代からあるだけで充分にすごい、と紫緒は思う。

「お兄さんは宮内庁楽部で楽師をしているの。国家公務員よ」
 公務員はたいていお役所勤めだと思っていたから、驚いた。

「律もそっちを目指すのかと思ったけど、やめたみたい。定員に空きがないと募集がないしね。空きが出ると宮内庁式部職楽部楽生科に入るのだけど、十五歳の男子限定で女性は入れないのよ。もともとは世襲制だったそうよ」
「すごいですね」
 まるで別世界で、まったく想像がつかない。
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