激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 紫緒はほっとした。
 詠羅は営業のエースと言われている彼に甘い。

「だってえ」
 甘えるように腰をくねらせ、詠羅は上目遣いで彼を見る。

「永高さんが頑張ってるのはみんな知ってるよ。なあ?」
 近くにいた社員に話しかけると、社員は慌てて頷いた。

「陸里さんはルールに従ってるだけだから、悪いのはルールなんじゃないかな。永高さんが社長になったら、ぜひ社則を改善してもらいたいなあ」
 斗真の発言に、詠羅は気を良くしたようだった。

「そうね、私が社長になったら大改革するわ」
 さりげなく彼が誘導し、彼女を紫緒から引き離す。
 紫緒が頭を下げると、斗真はにこっと笑って返してくれた。



「今日も雰囲気イケメンに助けてもらえたね」
 美悠の言葉に、紫緒は苦笑する。

「言葉がきついよ」
「だってさ、いつもかばってくれる風味だけど、あの言い方だとご令嬢はなにが悪いのかわからないままじゃない。なんかおかしいのよね、あの人」
 社員はみんな、裏では詠羅のことを皮肉を込めてご令嬢と呼んでいた。

 紫緒は素直に感謝していた。
 ほかに助けてくれる人なんていなかった。詠羅の気をそらしてくれるだけでもありがたい。

 美悠が助けてくれようとするのはいつも紫緒が止めていた。巻き込みたくなかったし、彼女の言い方ではきっとケンカになる。
「いつまであの方法が続くのか不安しかないけどね。私は転職しようと思ってる」
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