激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「阿辺野律さんに、こちらで待つように言われました」
「あのお坊ちゃんか。中途半端に雅楽やって、オーケストラと共演だとか調子に乗りやがって。お前もあのひょろひょろのファンか?」

 せせら笑う口調が不快だった。
 なんでこんなにつっかかってくるのか理解できないが、反論してもめたくなどない。

「人にはそれぞれ良いところがございますから」
 この言い方で大丈夫だろうか。巫女らしく返答できただろうか。

「気取りやがって!」
「そこまでにしてください」
 声がして、男性が現れた。

「律ぼっちゃん」
 男が焦ったようにつぶやく。

 紫緒は驚いた。
 現れた律は、先ほどまでとはまったく様子が違っていた。

 髪をセンターで分け、眠たげな垂れ目がはっきりと見えていた。
 全体的に優しい顔立ちだった。肌がきれいでバランスよく整っている。細身の体に、今はタンクトップにシャツ、黒いパンツという軽装だった。

「練習がうまくいかないからって八つ当たりはやめましょう」
「そんなこと言うと高天神社の演奏に行ってやらねえぞ!」

「いいですよ。兄に頼みますから。宮内庁の楽師が演奏なんて箔がつきます。ボランティアなら問題ないですし」
 あっさり答える律に、男性はあからさまに動揺を見せた。
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