激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「食べる?」
「食べます!」
「俺も食べようかな」
「ぜひ!」
 紫緒が笑顔を見せると、律は眩しそうに目を細めた。



 アイスを買った二人は、マリーナが見えるベンチに腰掛けて食べた。
 マリーナの船は波に揺られてがちゃがちゃとせわしなく音を立てている。

「アイスなんて久しぶり。冷たいね」
 律の感想に、紫緒はくすっと笑った。
「笑わないでよ」
「だって、アイスは冷たいのが普通なのに」
「久しぶりだから」
 照れたように律はうつむき、またアイスを食べる。

 食べ終えてゴミを捨てたあと、律が疲れているというから、またベンチに腰掛けた。
「こんなに遠出するの久しぶり。毎日練習ばっかりで」
「雅楽と聞きました。どんな楽器を演奏するんですか?」

篳篥(ひちりき)ってわかる?」
 紫緒はスマホを取り出した。ネットで検索すると、すぐに出てきた。

「これですか?」
「そう、これ」
 小さい竹製の縦笛だった。十八センチほどだという。

(しょう)のほうが雅楽の楽器として聞いたことありそう」
 言われて、それも検索する。
 長さの違う小さな竹を円状に束ねたような楽器だった。
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