激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「篳篥がメインメロディを奏でるんだよ」
 声に眠気が混じっていた。垂れ目が眠そうにさらに垂れている。
「元気が出たからって調子に乗っちゃったかも」
 律は大きくあくびをした。

「ごめん、ちょっと眠い」
 言った直後には、もうかくんと首が垂れていた。
 そのまま紫緒の肩に頭を載せて、寝息を立てる。

 重い……。
 紫緒は重さに耐えて律を支えた。

 こんなに細くて、強めの風に吹き飛んでしまいそうなのに。
 自分が少しでも動けば律が倒れてしまいそうで、まったく動けなかった。



 結局、一時間ほど彼は眠っていた。
 むにゃむにゃと起きた彼は、紫緒の肩に載っていた頬をさする。
「どれくらい寝てた?」
「少しですよ」
 紫緒の言葉に、垂れ目が彼女を見る。
 どきっとして、紫緒は目をそらした。

「けっこう寝てたんだ。ごめんね」
 なんですぐに嘘がバレるんだろう。紫緒は気まずく正面を見た。マリーナの奥には防波堤があり、海を見通すことはできない。

「帰ろっか」
「はい」
 言ってから、紫緒は少し不安になる。
< 86 / 241 >

この作品をシェア

pagetop