激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 ほうっておけば、律は夕食を抜いてしまいそうだ。
「どこかで軽く食べてから帰りませんか?」
「いいよ」
 律は嬉しそうに微笑を浮かべた。



 途中の熱海で律が食べられそうな軽いものを探して食べて、二人は帰った。
「今日はありがとうございました」
 お礼を言って、紫緒は車を降りた。直後、足の痛みにかくん、と力が抜ける。

「どうしたの?」
「靴擦れが……」

 紫緒が言うと、律は車のエンジンを止めて降りた。
 助手席側に回ると、ひょいと紫緒を抱き上げる。

「え!?」
「足、痛いんでしょ。家まで運ぶよ」
「い、いいです!」
「遠慮しないで」

 優しく言い、律はすたすたと歩く。
 こんなに細いのに、こんなに力があるなんて意外でもあった。

 心臓がばくばくと音を立てる。
 男性にこういうことをされるのはもちんろん初めてで、全身が緊張でこわばる。

 門をくぐり、律は迷いなく中に入っていく。
 離れと母屋の共有の庭には誰かがいて、律は立ち止まった。

「あ……千暁」
 紫緒もそちらを見る。千暁が袴姿で木刀をふるっているところだった。
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