激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 千暁は手を止めて、律と、抱えられた紫緒を見る。
 千暁は木刀を地面に置くと、つかつかと歩み寄って来た。

「これはどういうことだ?」
 千暁が敬語じゃない、と紫緒は驚いた。律が幼馴染の友人だからだろうか。

「靴擦れが痛いっていうから」
 律はそっと紫緒を下ろした。

「ごめんなさい。ありがとうございます」
「いいよ。俺こそありがとう。今日は楽しかったし、久しぶりに食事を美味しいと思えた」

「どうして二人で」
 千暁が訝しむ。

「彩陽さんが、私の気晴らしにって阿辺野さんに頼んでくれたんです」
「姉が……」
 千暁は顔をくもらせた。

「悪い、律。手間をかけさせて」
「いいよ。いつもお世話になってるし」
「……それから、彼女は私とつきあってるから」
 千暁の言葉に、紫緒は驚いて彼を見る。

「そっか……そうなんだ」
 律はうつむいた。

「あとは私が」
「……うん。じゃあね」
 律はそう言って帰って行った。

 その寂しげな背を見送ってから、紫緒は千暁を見る。
< 88 / 241 >

この作品をシェア

pagetop