激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「律は家族同然のつきあいです。家族につきあっていると言っている手前、律にも言っておかなくてはなりません」
「そういうことなんですね」
 紫緒は頷いた。

 だけど、なんだか違和感があった。逆に彼になら本当のことを言ってもいいように思うのに。

「阿辺野さんに悪いことをしました。私なんてきっと重いのに」
「そんなことはないと思いますよ」
 言いざま、千暁は紫緒をひょいと抱き上げる。

「――!」
 紫緒は驚きすぎて声も出せない。

「やっぱり、軽いですよ」
「いえ、あの」
 動揺する紫緒にかまわず、千暁はそのまま離れの玄関まで運び、おろした。

 千暁はなにか言いたそうにして、だが、結局、なにも言わなかった。
 紫緒は頭を下げた。

「練習のお邪魔をしてしまって、すみません」
「いいのですよ。……ところで、そろそろ巫女舞を学んでいただいてもよろしいですか?」

「私が巫女舞なんていいでしょうか。神様に怒られませんか?」
 紫緒が不安に聞くと、千暁は苦笑した。
「大丈夫ですよ」
 千暁はするりと紫緒の頭を撫でた。

「おやすみなさい」
 穏やかな笑みを見せて、千暁は背を向けた。
 紫緒は赤くなった顔を伏せ、おやすみなさい、と返した。

 彼の期待に応えたい。早く一人前の巫女になりたい。
 紫緒は強く心に願った。
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