激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
「私も転職は考えてるんだけど」
 求人は見ているのだが、ピンとくるものがなくてこの仕事を続けていた。

 辞める勇気も、新しいところに飛び込む勇気も足りない。
 就職して三年、ようやく一人前になったところだと思う。
 ここで辞めてしまうと「たった三年で」と言われるのではないかと不安があった。

 今まで通り、平凡に人生を過ごしていくのだろうか。
 そんな不安ともつかないものが胸をよぎる。
 人生をがらっと変えたいと思うときもある。

 だが、なにをどうしたらそうなるのか、今の紫緒には想像もできない。
 そろそろ結婚についても考えなくてはならないだろうか。
 結婚したら人生が変わるだろうか。
 誰ともつきあったことなどないから、交際もその先のこともぼんやりしていて思いつかない。

 もし結婚するなら。
 斗真の顔が浮かび、慌てて首を振った。
 何度も助けられているから、彼がとても頼もしかった。
 ただそれだけだから。
 紫緒は心の中で言い訳をした。



 夕方、仕事を終えたとき、斗真が声をかけてきた。
「陸里さん、このあと時間ある?」
「なんでしょう」
 急ぎの仕事だろうか。そう思う彼女の耳に、斗真はそっと囁く。

「一緒に食事に行かない?」
 紫緒は思わず身を引いて斗真の顔を見た。彼はにこっと笑う。
「い、行きます」
 どもりながら答える紫緒の頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
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