激流のような誠愛を秘めた神主は新米巫女を離さない
 あの二人がくっつけばハッピーエンドだったのに。
 なのに、あの様子からすると恋への発展はなさそうだ。

 その上、だ。
 彩陽は昨夜を思い出す。

 夜中にふと目覚めると、外から水音がした。
 窓の外を見ると、千暁が水行をしているのが見えた。

 真夏とはいえ、浴びるには地下水は冷たすぎる。
 朝になってダイニングに現れた千暁はげっそりとやつれていた。

 どうしてそんなことになっているのか。
 きっと紫緒が関係しているに違いない。

 彼女が悪い子ではないことはわかる。
 だが、どうしても嫌悪を抱いてしまう。
 どうにかしないと。

 ふと、VRアーティストとマネージャーを思い出す。
 彼らが最初に神社に来たときに挨拶をして、名刺ももらっていた。

 大晴の恋人募集中なんですよ、と言って弘文は怒られていた。
 彼なら年も近くてイケメンで今時だし、話題のアーティストという肩書も魅力的なはずだ。
 彩陽はにやりと笑った。

***

 紫緒は手すきの時間に彩陽から巫女舞を習った。
 巫女舞は神楽の一種だ。巫女神楽、八乙女舞(やおとめまい)とも呼ばれる。

 もともと、神をその身に降ろして神託を受けるためのものだったという。
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