わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「それでは、私たちは失礼します」
 メイまで部屋を出ていった。いつもであればないはずのワゴンが、部屋の隅に置かれている。
 ユージーンには毒師について説明をしようと思っていたのに、彼はとうとう部屋にやってこなかった。そしてもう、寝る準備がすっかりと整っている。
 もしかしてユージーンは来ないのだろうか。
 そもそも魔獣討伐から戻ってきたばかりである。きっと疲れて眠ってしまったのだろう。
 別に急ぎの話でもないし、彼の都合のよいときに伝えればよい。
 そう思っていた矢先、控えめに扉が叩かれた。
 ――コツ、コツ……コツ、コツ。
 それは部屋の外に通じる扉ではなく、部屋と部屋をつなぐ内側のほう。つまりユージーンの寝室と繋がっている扉のほうである。
「は、はい……」
 まさかそちらの扉が開くとは思ってもいなかった。クラリスは柄にもなく緊張する。
「失礼する」
 ユージーンも湯浴みを終えたところのようだ。襟足が少し濡れており、水滴がこぼれている。こうやってまじまじと彼の顔を見るのも初めてである。
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