わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 それでも母親は複雑な心境だったようだ。自分は犠牲にしても、子どもを守りたいと、心のどこかでは思っていたにちがいない。
 やはりそれも説き伏せたのは父親である。
 子どもたちだっていつまでも子どものままではない。成長と共に人生の目標を持つようになると。子どもたち本人が自分の意思で毒師になる道を選んだのであれば、それを見守るのも親の役目ではないか、と。
 危険だからといって危険なものをすべて排除してしまえば、成長する機会すら失ってしまう。だから危険であることがすべて悪いわけではない、と。
「わたくしはこの体質を生かして、アルバート殿下の毒見役を務めておりました。アルバート殿下は狙われることが多く、わたくしとしましては毒に困らない生活を送らせていただきました」
 むしろアルバートの毒見役とは、たいへん光栄である。
「アルバート殿下の毒見役は、十年ほど続けさせていただきましたが……」
 ところがあの日。アルバートとハリエッタの婚約披露パーティーが行われた二日後。
 あの二人から結婚をすすめられたのだ。
「ハリエッタ様が殿下の婚約者となられましたので、今度はハリエッタ様の毒見役もと思っていた矢先です。お二人からこの結婚を提案されました。いつの間にか国王陛下にまで取り込んで、断れないような形にもっていったのです」
< 104 / 234 >

この作品をシェア

pagetop