わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「その婚約披露パーティーで、君が何をしたのか。俺はネイサンから聞いて知っているのだが。もしかして、アルバートの食事を奪っていたというのは……」
「ものの見事に毒まみれでした。むしろあれは媚薬です。殿下をそのまま寝台に引きずり込んで、既成事実を作ってしまえという思惑が満ちておりました。わたくし、毒だけでなく媚薬にも耐性がありますので。むしろ、薬という薬が効きません」
 少し喉が渇いたクラリスは、毒入りのお茶に手を伸ばす。
 その様子をじっくりとみていたユージーンが口を開く。
「では、その婚約者のハリエッタ嬢のグラスの中身をぶちまけたというのは?」
「はい。あの飲み物にも見事に毒が仕込まれていました。と言いましても睡眠薬です。こちらもハリエッタ様を手籠めにしてやろうとする思惑がひしひしと感じました。おそらく犯人は、メンディー侯爵子息ではないかと。いつも近くをうろうろしていると、ハリエッタ様がおっしゃっておりましたので」
 足を組み直したユージーンの眉間には、かすかにしわが刻まれた。
「ですが、あのときの対処法はやりすぎました。殿下からもハリエッタ様からも叱れました。もう少し、うまくかわす方法があったのではと、後になってから思った次第です」
「つまり、君が毒女と社交界で呼ばれていたのは?」
「それは、独身を貫き通していたから、でしょうか? もしくはああやって、殿下の食べ物を奪っていたから、見る人によってはそう思われたのかも? それでも、殿下を毒から守るのがわたくしの役目と思っておりましたので」
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