わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「まず、知っての通り、ウォルター領には毒が豊富だ。好きなだけ食べて、飲んでもらってかまわない」
「あ、ありがとうございます」
 ここに来てから今までも好き勝手毒を手に入れていたので、こうやって許可を出されるとなぜか恥ずかしい。
「それから、俺は君と離婚する気はない」
「……へ?」
 おもわずクラリスの口から、情けない声が漏れた。だが、すぐにきりっと顔を引き締める。
「ですが、この結婚は離婚前提で受ければよい、離婚約であると、そう提案されたのは旦那様ですよね?」
「ああ、そうだ。だが、気がかわった」
 すっと立ち上がったユージーンは、クラリスの隣に座り直した。彼の重みによって、ソファが沈む。
「俺は……この結婚を離婚約にするつもりはない」
「え?」
「俺は君に惚れたんだ。毒蛇を両手に持って俺を出迎えたあの姿。あれは、衝撃的だった。それと同時に、俺の心臓は打ち抜かれた……」
「もしかして、吊り橋効果というものでは? 恐怖を覚えたときに出会った異性に対して、恋愛感情を抱きやすくなると言われているではありませんか」
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