わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 それも唇と唇を合わせるだけの軽いものではない。彼はしつこく重ね合わせたあげく、唇を食んできた。
「んっ……ふっ……ン」
 息苦しくなって呼吸を求めようとすれば、鼻から抜けるような甘い声が漏れた。次第に身体からも力が抜け、ずるずるとソファに沈みかける。
 いや、押し倒されている。
 今日は抱かないと口にしたユージーンが、熱い口づけをしながら、どさくさにまぎれてソファの上に押し倒してきたのだ。
「やぁ……んっ……」
 これ以上、許してはならない。彼がもたらす甘い口づけによって身体がとろけ始めたころ、クラリスは自由になる両手で、彼の胸をドンドンと叩いた。
 それで我に返ったのか、ユージーンがすっと身体を引き、やっと唇が解放された。
「だ、だ、旦那様。そうやって隙あらば押し倒そうとするのは、やめてください。我慢してくださるはずですよね?」
「ああ、すまない。あまりにも君との口づけが心地よすぎて」
 真下から彼の顔を見上げると、その鉄紺の瞳には、情欲が見え隠れする。
「今日はここまでにしよう。明日以降、いろいろと相談したいことがある。時間をとってもらえるか?」
「あ、はい。もちろんです」
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