わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「クラリスは、毎朝、温室まで散歩をしていると聞いた」
 正確には散歩ではなく、温室で栽培している草花の成長具合の確認である。朝一で確認することで、草花の摘み頃を把握しておくのだ。
「はい。メイと一緒に温室まで行っております」
「これからは、メイの代わりに俺が同行していいだろうか?」
「え?」
「迷惑か?」
 おもわず彼の顔を見上げた。
 ユージーンはやさしく微笑んでいる。この顔を見たら「迷惑です」とは言えない。それに、彼も言ったように「メイの代わりに」と思えば、今までとかわりはないだろう。
「いえ、お気遣いいただき、ありがとうございます」
「そ、そうか……迷惑だと言われたら、どうしようかと思った」
 くしゃりと表情をくずして、彼は破顔した。また、その顔がクラリスの心を揺さぶる。
 温室は庭園をまっすぐに抜けていく必要がある。そこでは、朝も早いうちから、庭師が丹誠こめて花の世話をしていた。
「おはようございます、旦那様、奥様」
< 114 / 234 >

この作品をシェア

pagetop