わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「おはようございます」
「おはよう。朝から精が出るな」
 ユージーンが声をかけると、庭師は照れたように頭をひょこっと下げた。
 太陽が昇ろうとしているこの時間帯は、まだ空気がひんやりとしており、朝露によって葉っぱが濡れている。
 庭園を抜けるとすぐに温室が見えた。
 温室の中はあたたかい。暑すぎるときは、温室の小窓を開けて温度を調整する必要があるが、今日の気温ではその作業は不要だろう。
 温室内をぐるりと見回して、ここで育てている植物の成長を確認する。まだ摘み頃の花はないが、水が足りていないようだ。
「あの、旦那様。花に水やりをしてもよろしいでしょうか?」
 クラリスにとってはいつものこと。だけどユージーンはこの温室に来たのは初めてあるし、きっと手持ち無沙汰になるだろう。
「そちらに休憩用の椅子がありますので」
 そこで座って待ってもらうつもりだった。
 しかしクラリスがじょうろを手にして水を汲みに行こうとすると、ユージーンが後ろからついてくる。
 水は井戸から汲み上げる必要があるが、その井戸は温室の近くにある。彼はクラリスがやろうとしていることに気がついたようで、ひょいっとじょうろを奪うと、井戸から汲んだ水でじょうろを満たした。
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