わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「あ、ありがとうございます」
「温室まで俺が運ぼう」
 水によって満たされたじょうろはそれなりに重いものの、クラリスが運べないほどではない。それでも彼の気持ちをありがたく受け入れる。
「ここで、大丈夫です」
 ユージーンからじょうろを受け取ったクラリスは、それを傾けて草花に水をやり始める。土の色が変わり始めると、湿った土の匂いが漂う。
「君は、ここで何を育てているんだ?」
「毒草と毒花が主ですね。温室で育つものを植えました。温室は気温が安定しておりますから、毒草も育てやすいのです」
 相手がユージーンであるならば、何も内緒にする必要はないだろう。
「だが君は、裏の森にもよく足を伸ばしていると聞いているが?」
「ネイサンからお聞きになったのですね?」
 じょうろからは、ゆっくりと水が流れ出ている。
「そうだ。愛しの妻が、どのように過ごしていたか、確認は必要だろう?」
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