わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
 惜しげもなく言われると、なぜか恥ずかしくなる。少しだけ頬が熱くなったが、それを悟られないようにと、クラリスは平静を保つ。
 一歩進んで、次の毒草に水をあげる。
「そうですね。裏の森には毒をもつ植物も豊富ですし、生き物もたくさんいると聞いています。ですから、そちらの採取のために森に入っていたのですが……。あまり、こちらの人は森に入るのは好きではないようですね」
「好きではないというよりは、危険な場所だからな。入らないようにと俺たちが厳しく指導している。君が言ったように毒をもつ生物がたくさんいるし、たまに魔獣も紛れ込んでくる。自分の命をおびやかすような場所に、自ら飛び込みたいと思うものはいないだろう」
「そうなのですね。わたくしとしては、毎日、森で毒きのこや毒虫などを採取したいのですが……」
 そこまで言いかけて、やめた。これでは同行してくれたカロンを咎めるような言い方になってしまうと想ったのだ。
「なるほど。君が森に入るときに同行していたのは、カロンだな」
「は、はい……」
 それもネイサンから聞いたにちがいない。カロンの名前が出て、クラリスの心臓はドキリと大きく跳ねた。もしかしてユージーンは彼を叱責するのだろうか。そうであるなら、カロンに申し訳ない。なんとかして、カロンは悪くないと説得しなければ。
< 117 / 234 >

この作品をシェア

pagetop