わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「はい。温室で水やりが終わったら戻ります。こちらの草花を摘むのは、お昼を過ぎた時間帯です」
「なるほど。では戻ろうか」
 またユージーンが手を差し出してきたため、クラリスは慌ててじょうろを片づけ、彼の手を取った。
 温室を出て、また庭園の中を歩く。先ほどよりも太陽は顔を出しており、明るく草花を照らしていた。
 どこからか漂ってくる花の甘い香りは、クラリスの心をぽかぽかとあたたかくする。
 ちらっとユージーンを見上げれば、その視線に気づいたのか、彼も顔をこちらに向けてくる。
「どうかしたのか?」
「いえ、どうもしません」
 少しだけ速く動いている心臓を落ち着けるかのようにして、クラリスは目の前に見える城館に視線を向けた。
 館内に入ると、ふたりとも着替えをするためにそれぞれ部屋へと戻った。
 クラリスは裾や胸元にフリルがふんだんにあしらわれたモーニングドレスに着替える。
 昨日までは一日中、紺色のエプロンワンピースで過ごしていたというのに。
 食堂へ入ると、ユージーンはすでに席に着いていた。先ほどとその服はあまり変わってはいないように見えた。
 ネイサンが椅子をひいたため、クラリスは静かに着席する。
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