わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「よっぽど悔しかったんでしょうね。毒女は、自分がアルバート殿下の婚約者に選ばれると、そう思っていたにちがいありません。なにしろずっとくっつきまわっていましたからね。周囲の者も、そうなるだろうと思っていた節はあったみたいですし」
 それでもアルバートの婚約者となったのはジェスト公爵令嬢のハリエッタである。身分的にも釣り合いがとれているし、婚約発表の前から二人の仲睦まじい様子は噂になっていた。そういった話はユージーンの耳にも届いていたのに、毒女ことクラリスの話はまったく知らなかった。
「婚約者のドレスは汚れ、殿下は婚約者を連れて退席なさいました。そのあとの毒女が見物だったんですよ」
 ネイサンはくつくつと笑いを堪えている。よっぽど面白かったにちがいない。今でも思いだし笑いをするくらいなのだから。
「殿下たちが飲むはずだった飲み物を手にして、口に合わない酒を誰が用意したんだって、周囲を威圧してましてね。ああ、なるほど。毒女と言われるのも納得、という感じでした」
「そうか……」
 ネイサンの話を黙って聞いていたユージーンであるが、その女性と結婚しろと国王は命じてきたのだ。
 アルバートの腰巾着であった毒女。となれば、アルバートが一枚かんでいるにちがいない。いや、絶対にかんでいる。
「ネイサン、この縁談……」
 できれば断りたい。むしろ、向こうから断ってくれないだろうか。
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