わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
閑話:侍女 → 毒女
 メイはクラリスと共にウォルター領へとやってきた。
 ベネノ侯爵家で侍女として働いていたメイだが、彼女自身はしがない男爵家の娘である。行儀見習いも兼ねて、侯爵家で働くようになったのは今から三年前、十六歳になったときだ。
 だが、慣れない環境で体調を大きく崩すと、クラリスが滋養の出る薬だと言ってジャムのようなものを食べさせてくれた。そのおかげか、体調はすぐによくなり、メイにとっては慈愛に満ちているクラリスは女神のような存在となった。
 だからクラリスが結婚のためにウォルター領へ行くと決まったときも、迷わずついていくことを決めたのだ。
 クラリスは毒師として王太子アルバートに仕えていたというのに、彼の婚約が正式に決まったとたん、ぽいっと捨てられてしまった。
 てっきりクラリスはアルバートと結婚するものだと思っていたメイにとっては、衝撃的な出来事であった。
 ということを、ウォルター領に来てから五日経ったころ、メイがぽろりとこぼした。
「アルバート殿下とわたくしの関係は主従関係よ。結婚だなんてありえないわね」
 いつもの毒入り紅茶を飲みながら、クラリスはしれっと答えた。メイにとっては驚きの事実であったというのに。
「そうなのですか? てっきりお似合いの二人だと思っていたのですが」
「アルバート殿下はハリエッタ様を想っていらしたから、他の女性が寄りつかないようにというけん制もしていたけれども。わたくしとアルバート殿下は、お互いにそういった感情はいっさいないわ」
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