わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?
「私は誠心誠意、クラリス様にお仕えするだけです」
「ありがとう。あなたがここに来てくれたから、本当に心強いわ」
 そう言ってもらえれば、メイだってまんざらでもない。ちょっとだけ、心がふわっと浮いた。それを誤魔化すために、話題を振る。
「それにしても、旦那様はどのような方なのでしょうね?」
 せっかく輿入れしてきたというのに肝心の夫が不在。
「わたくしも姿絵しか拝見していなけれども、やさしそうな雰囲気は受け取ったわ。それに、こちらで働いている使用人を見れば、なんとなくその主人の人となりもわかるでしょう?」
「そうですね。アニーさんもとても親切に仕事を教えてくださって。私までよくしてもらってます」
 初めて来たときは見知らぬ場所で不安だった。それでもクラリスが側にいるし、その彼女が初日から毒蛇を捕まえた功績は大きいだろう。
 どうやらこのウォルター領には、毒を持つ危険生物が数多く生息しているようだった。
 その毒がクラリスにとっては必要不可欠のものだから、生活の場としては文句のつけどころがないくらい理想の場所。
 だというのに、クラリスは二年後には王都へ戻ると言うのだ。クラリスの身体を考えれば、王都よりもウォルター領にいたほうがいいだろうと思うのに。
 だけどメイはクラリスに従うだけ。彼女が王都に戻るというのであれば、もちろんメイも一緒に戻るつもりだった。

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